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藤原岳鉱山「希少種保護どう実現」 2012.02.06 中日新聞 朝刊

          中日新聞 2012.02.06 朝刊 三重版
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希少種保護どう実現                    ニュース追跡
いなべ・藤原岳の鉱山開発計画

鈴鹿山系北部に位置するいなべ市の藤原岳の山頂付近で、大手セメント会社が新たな鉱山開発を計画している。 セメント原料の石灰石が戦前から採掘される藤原岳周辺は動植物が豊かで、天然記念物イヌワシの県内唯一の生息地。 県の環境アセスメントで現在最終手続きに入る会社側は、計画の修正や希少種の保全措置を打ち出しているが、実効性には課題が残る。 (加藤弘二)

 この鉱山開発は、太平洋セメント(東京)の藤原工場が計画。 山肌が大きく削り取られた山頂鉱区沿いの59ヘクタールが対象となる。 50年分の採掘量が見込まれ、今年中に地下坑道の工事に入り、2016年度からの採掘を目指す。
 当初の開発案には別の鉱区も含まれていたが、近くでイヌワシの営巣地やひなを確認。 巣から離れた山頂鉱区のみの開発へと縮小させている。  巣の保護を訴えてきた日本野鳥の会三重代表の平井正志さん(65)は、計画修正を評価しながらも「順調な繁殖を続けるつがいに影響を及ぼす恐れは依然ある」と指摘する。  平井さんが問題視するのは、イヌワシの餌狩り場。 イヌワシは高い木がない開けた地で、餌の小動物を捕まえる習性があり、採掘予定地でもたびたび捕獲していることが判明している。
会社側は、山頂鉱区近くの山林を帯状に間伐し、代替の餌狩り場を造る予定だ。 イヌワシ保護を目的とした間伐は、東北地方の北上山地で十年ほど前から普及。 しかし岩手県環境保健センターによると、間伐地では小動物が増えたものの、イヌワシの捕食が確認されたのは二例にとどまる。  センターの前田琢主任専門研究員は「生態系へのメリットは確かにあるが、実際に餌狩り場として機能するかはケース・バイ・ケース」と話す。
 藤原岳一帯には、カタツムリの地域固有種で、三重県希少野生動植物種のカナマルマイマイも生息。 環境アセスメントの手続きの中で会社側は、予定地のカナマルマイマイを藤原岳の別の場所へ移す案を示したが、県環境影響評価委員会では「カナマルマイマイは移植例や生息情報がほとんどない」と、効果や影響を測りかねる意見が相次いだ。
 こうした議論を踏まえ、先月25日に公表された知事意見も「イヌワシやカナマルマイマイ及び、希少な動植物の環境保全措置は、その効果が不明確」と指摘し、さらなる検証を求めている。
会社側は知事や住民の意見を踏まえ、着工前の最後のアセス手続きとなる環境影響評価書を作成中。 その中で、イヌワシ用の代替の餌狩り場を採掘開始前に造り、先行検証の実施を盛り込む方針だ。
太平洋セメントの担当者は「効果面で試行錯誤が続く措置もあるが、取りうる選択肢を最大限取入れていく。 今後も専門家との協議も重ね、モニタリングを続けていきたい」と話している。

《視線》
 昨秋、藤原岳周辺の山に初めて登った。 なだらかな台地に低木や草地が広がる山頂付近。 イヌワシの生態を知るにつれ、生息に適した地だと実感する。
 一方、この地の採掘には80年の歴史がある。 地場産業の担い手として、自然との共存を試みようとの社の姿勢が取材を通じて垣間見えた。
 環境問題の議論で難しいのは、影響を測る指標が多岐にわたることだ。 しかも生態系の変化は微妙で、影響の行方も複雑。 一過性の議論に終わらず、調査と検証の反復を期待したい。

by mamorefujiwaraMT | 2012-02-06 19:44 | 新聞 関係記事