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樹高を測る-2 (第6話~第7話)

野外での簡易測定あそび  (全7話)                       藤原 昧々    
〈野外測定あそび その6〉 滝や対岸の木     
滝や、対岸の木を測る
高さの計測には、目的物までの距離の測定が必要です。 しかし、対象が、川の対岸の立木とか、滝壺の奥の滝となると、距離が調べられないので、高さの計測は不可能になります。
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私が10年ほど以前に、小遣いを貯め数万円を奮発して購入した〈距離計〉が右側の写真にある逸物です。 
現在地の確認のために向こう側の尾根のピークまでの距離を測ったり、御池岳平頂部の精細図の作成を志したりした折に欲しくなった計器です。 写真のとおり、双眼鏡形式になっており、目指す物に赤外線を発射して反射する時間で距離を計測します。 数百mの距離までを誤差1mていどで測ることができます。 

高台から、眼下の市庁舎や病院までの距離を測ったり、大河を行く船までの距離を即座に精確に測定してくれます。 ただし「親子関係」や「夫婦関係」の距離などはまったく計測できないらしい。 
更にこの距離計の弱点は、小さいもの、細いものへの照準がかなり困難なこと、茂った葉などに覆われた樹幹への距離が正確に測れないことです。 岩のような反射率の高い滝の場合、高さの測定などにはこの道具を持参して、距離測定の代用ができます。
仮に底部と最頂部までの各距離が測定できれば、じつは仰角や俯角の測定は不要になります。
下図にあるとおり、①のように、ピタゴラスの定理により、距離がだせれば、計算器だけで高さがわかります。
昨今、巷間では先に述べた最新のiPhoneがあり、無料か安価なアプリケーションを使用すれば、傾斜地など複雑な条件でも、測定が解決できるのかもしれません。
というのは、傾斜地から測定する場合には眼高が変化するために、木や滝の基部と頂部までの距離と、両者の仰角と俯角の和(θ)の数値が必要ですが、それらが測れれば、②の式、あるいは第1章の公式によって、
樹高を測る-2 (第6話~第7話)_a0253180_10114571.jpg
これも計算器で樹高や滝の高さの数値を得ることができます。
最新のiPhoneがやっているのは、これらの理屈の応用だと私は想像しています。
右の図で、①の計算例を示してみましょう。
仮に、木までの距離(a) が14mで、最頂部までの距離が17.5mならば、
hの2乗=17.5×17.5-14×14=110.25 
110.25の平方根は10.5なので、樹高は1.5+10.5=12.0 で、12.0mです。

②の計算例もひとつ。
仮に、傾斜地から見て、木の基部までの距離aが14.5m、最頂部までの距離bが17.5m。
木の基部への俯角が7°、最頂部への仰角が33°と測定されますと、
H =14.5×14.5+17.5×17.5-2×14.5×17.5×Cos(7+33)°
=210.25+306.25-507.5×Cos40°
Cos40°=0.766なので、計算すると、樹高は127.755mの平方根、11.3mと出ました。
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本図に基づいて①の例(H=1.5+h)を、②の公式でhをだす方法で計算してみます。
つまり、aが14m、bが17.5m、俯角0°と仰角33°の和が33°という設定です。
h =14×14+17.5×17.5-2×14×17.5×Cos33°
=196+306.25-490×Cos33° Cos33°=0.839なので、計算すると、
hは91.14の平方根9.55なので
求める樹高=1.5+9.55=11.05  
で、11.05mと計算されました。

もうひとつ、これを、H=L×(Tanα+Tanβ)の公式で計算してみます。
関数表によれば、Tan7°=0.123、
Tan33°=0.675、ですので
H=(a)×(Tan7°+Tan33°)
=14×(0.123+0.675)
=11.17で、
樹高=11.17mと計算されました。
4例のうち、最初のピタゴラスの定理の計算
だけが少々数値が多めにでましたが、これは
いずれも仮の数値の設定で生じたものですので
多少の相違はご了承ください。
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今度は、第5章の例3の図に基づいて、
樹高の計算をしてみましょう。
あのときは、比例計算の式で計算し、
樹高が12mとでましたね。

①の計算例でやってみます。
仮に、木までの距離(a) が18mで、最頂部
までの距離が21mならば、
21×21-18×18=117 の平方根は10.8なので、
樹高は1.5+10.8=12.3m とでました。


②の計算例ではどうでしょうか。仮に、傾斜地から見て、木の基部までの距離が18.3m、最頂部までの距離が21m。 木の基部への俯角が5°、最頂部への仰角が30°と測定されると、
18.3×18.3+21×21-2×18.3×21×Cos(5+30)°
=335+441-768.6×Cos35°
Cos35°=0.82なので、計算すると、樹高は146mの平方根、12.1mとでました。

この例を、H=L×(Tanα+Tanβ)の公式で計算してみます。
関数表によれば、Tan5°=0.088、 Tan30°=0.577、ですので
H=(a)×(Tan5°+Tan30°)=18×(0.088+0.577)=11.97で、
樹高=11.97m と計算されました。

以上、4例とも、どの方式によっても、樹高はきわめて似かよった数値で計算され、その結果の見事な符合には我ながら驚かざるをえませんでした。 算数はおもしろい。

                                 (第6話 おわり)


〈野外測定あそび その7〉 実践編                                      
実践 編
さて、手定規、ピッケル定規、45度固定式樹高器、仰角測定樹高器など各種簡易測定器を製作し、ひも計測や歩測も大丈夫になりましたから、いよいよ野外での実験です。

① 電信棒
測定した電信棒には全長16mと記してありましたから、地上部は13.3mです。 
私の簡易樹高計の精度はどうでしょうか。
電信棒の先端部を45度固定式三角定規樹高計でのぞき、下垂する錘が定規の垂線とぴったり一致する場所から、電柱までの距離を歩測で測ると、11.5m(8複歩+20cm)でした。  
距離11.5mに眼高1.5mを加えた結果、13mという高さが得られました。
きわめてピッタリの結果で、できすぎの感がします。 

② 住宅
写真の瀟洒な(?)住宅は、たて60cmのパネルが12枚貼ってあり、その他の部分を約1mとみて、高さは8.2mと判断しました。 
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腕を伸ばして手をひらいた縦巾(20cm)が家の全高と一致する地点の家からの距離は19mでした。 
さあ、あの「見ろよ(0.364)」の登場です。 
19×0.364=約7  
立っている場所が道路より50cmほど低いので眼高を1mとすると高さは8mとなり、今回もけっこういい線をいきました。 手巾測定法もあなどれませんよ。


③ 桑名市太夫の大楠
この木は、説明の看板によると、樹高は27m、枝張りが26~28mという堂々たる巨木です。 
距離46mの位置から、分度器樹高計で仰角を測ると 27°とでました。 tan27°は、測定器貼付の表では、0.5095ですので23mとなり、眼高1.5mを加えて24.5mとなりました。
この数字を近いとみるか否か。 大木の計測は異同が生じやすく、とくに古い計測値は精度に問題が多いので、看板の27mの数値を絶対とみなさなければ、これでまあ良しといたしましょう。
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④ 走井山のイチョウ
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こんどは、まったく樹高がわかっていない公園のイチョウを三角定規樹高計で測ってみました。
広場があり、45°固定式でいけそうなので、のぞいて一致する位置と木までの距離を歩測すると10複歩(14m)とプラス1mでした。 
つまり、15mに眼高1.5mを加えて、樹高は16.5mとだしました。 
正解は不明。

⑤ 京都平安神宮の大鳥居
画家パウル・クレーの展覧会を見に京都にゆきました。 会場前は、平安神宮への入口にあたり、巨大な朱塗りの鳥居が広い道路と空間を圧してそびえていました。 
この鳥居の中央部の高さを私の分度器測高器で測ることにしました。 測る位置をどのあたりに決めるかですが、見上げるような近い位置か、あるいは、ある程度遠く離れた位置から角度をとるのが良いのか迷います。  
たとえば、仰角40°から45°のtan値の差は0.16に対して、仰角20°から25°のtan値の差は0.10と小さい。 歩測の誤差よりも角度測定による誤差のほうがはるかに大きいから、ある程度は離れた位置に決めた。 まず歩測で調べ、同時に30cm四方の舗石の数でも距離の正確さを担保する。 
距離は45m。 仰角は25°であった。
鳥居の高さ=45m×tan25°+眼高1.5m=45×0.466+1.5=22.5m
結局、22.5mとでました。

次に、自分の腕を前に突き出して手巾が鳥居の全高と一致する場所を決め、歩測しますと距離が55mありました。 
見ろよ(364)、20cmの手巾で遠き物」をつかいます。
鳥居の高さ=55m×tan20°=55×0.364=20.0m   結局、20m とでました。
ネットで、「平安神宮大鳥居」、を検索して高さを調べますと、24.2mと書いてありました。
実際よりも、私の測定値は小さかったわけですが、おそらく、せり上がった鳥居の両端の高さまでが全高とされているでしょうから、中央部よりも仮に2mほど加算すると、私の測定値はほとんど一致します。 すごいですよね。

⑥ 電柱
最後に、自宅ちかくの電柱の高さを、「簡易法(のり)面角度器」で測りました。
電柱からの距離を例の細ひもを使い、10mの位置を決めて、仰角を測りました。 計器の気泡の示す値が仰角です。 51度ありました。
電柱の高さ=10m×Tan51°+眼高1.5m=10×1.235+1.5=13.85m
電柱の標識には16の数字が記されているので、地上部の高さは16-2.5=13.5mのはずですが、私の計測はまずピッタリだったといえましょう。 めでたしめでたし。

                             (第7話 おわり) 2011.08.31 記

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                私の簡易計測用備品です。

補遺  
中学教科書から
2012年の夏、あるきっかけで、市内の中学生が使用する数学教科書を1年生から3年生まで3冊を勉強し直した。 その時、東京書籍「新しい数学③」の三角形の相似の条件とその利用のくだりに、今回の私のテーマに関係した記述(p.125)を見つけ、 大変興味深かったのでここに一部紹介をしておきたい。

おもしろいと思った方法は、日光による影の利用と、写真の応用であり、いずれも相似する図形の性質をうまく活用している。

例えば野原やホテルの広い芝生庭園に一本のヒマラヤシーダが植わっていたとする。 天気が良くて樹の影が地上にくっきりと映っていたならば、その影の長さを歩測や巻尺で計り、あわせて自分の背丈を映した影の長さも測定する。
〈自分の身長〉:〈背丈の影の長さ〉=〈樹の樹高〉:〈樹の影の長さ〉
の計算で実際の樹高を求めることができる。

すでに高さが判っている物の影を時をおかずに測定すれば良いわけで、人物の影の長さよりも、例えば先述の電柱(13.5m)の影の長さを測る方法のほうが比較対象の高さの比が小さく、より正確な結果が得られる。 ただ、山中では、求める樹の樹影を平らな地面で見ることはまず不可能に近く、万一得られてもそれを街中の電柱の影と比較することなどはナンセンスであろう。

写真の場合は、樹に並んで人を立たせ、両者を写しこんだ写真を撮れれば、出来た写真に定規をあてて両者の長さを正確に読み取れば、同じく比例計算で樹高は求められる。 ただし、樹の高さはほどほどまででないと良い結果は得ずらいでしょう。






by mamorefujiwaraMT | 2013-08-05 10:23 | いっぷく亭