カテゴリ:藤原岳開発問題とは( 1 )

問題概要   一問一答   平成25年8月改訂3版                                                                                 藤原岳の自然を守る会 編                                

《問い》 
今回の鉱区拡張計画とは、どのような内容なのですか?
《答え》 
これまで太平洋セメント株式会社は、藤原岳の東面と多志田谷の西面を石灰採取のために80年間掘ってきました。 今回の計画は、東面・北面の山頂部(三等三角点周辺)と多志田谷の孫太尾根中腹をさらに50年間掘削してゆこうというものです。
会社は、それぞれを、「山頂鉱区」と「治田鉱区」と呼んでいます。
治田鉱区の場合、孫太尾根じたいが掘られるために登山道は迂回され、景観も当然ながら激変します。 
こちらは、イヌワシの営巣への配慮のため(あるいは会社の資金事情か?)計画はいま中断中です。  
山頂鉱区拡張の場所は、今ハゲ山の東斜面の奥と右側(北面)が対象になり、右奥に禿げ山が広い範囲にのび、上部の尾根は削られ近接の谷が埋まるというイメージか、あるいは標高600mまでがごっそり抉り取られるということか不明ですが、大貝戸集落側から見上げると広大な掘削で恐ろしいほどです。 
近年、御在所山スカイライン、青川峡、藤原・御池岳での、山地性集中豪雨による谷筋の被害と地形変貌は凄まじい。 
土石流はほんとうに防げるのだろうか?

《問い》 
以前は小野田セメントだったと思いますが、会社名が変わったのですか?  
《答え》
そうです。 小野田セメント、浅野セメント、秩父セメントなど従来のいくつかのセメント会社が度々合同合併して平成10年に今の太平洋セメント株式会社が生まれました。 いなべ市にあるのは同社の藤原工場です。 セメント製造、産業廃棄物処理業、運送業、三岐鉄道など営業は多岐にわたります。 なお埼玉県では粘土採掘跡地で高級ゴルフ場を経営しています。 「50年後、藤原山頂でもゴルフ!」。 冗談ですが、山の所有者として可能かもしれません。近年、下の写真のとおり、山頂部は荒廃の一途をたどり、次第に裸地と帰化植物とでおおわれてきており、この惨状を見ると、芝草を植えて冷涼なゴルフ場にでもするしかないとの諦めもちらつきます。
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セメント産業が閉山や離合集散を繰り返してきた背景には、厳しいコスト競争と景気に左右され易い業態、山元鉱山特有の収益圧迫などがあり、山がある限り地域の雇用と経済が保証されるという期待は幻想でしかありません。  ちょうど電源交付金と寄付金に依存する原発立地自治体が突然の原発停止で財政難と雇用の問題に直面したのと似て、予期せぬ閉山による町の停滞を嘆く市町村は全国にいくつも例があり、藤原町の将来も決して楽観的予断を許しません。
その場合、荒廃した山の姿とツタが覆う巨大な工場施設の残骸のみが残ります。 ネット上では全国のセメント工場廃墟めぐりツアーのフィーバーがあり、各地の写真集でにぎわっていますが、関係者の胸のうちを思うと残酷な映像で違和感をおぼえます。
ちなみに、日本のセメント生産量は1996年1億トン弱が2010年約5000万トンへと落ち込み、その2割の1000万トンを毎年海外に輸出しているがその量は今後の東北大震災復興に要される必需総量に匹敵する数字です。(2009年度の世界の生産量は28億トン、藤原工場は約200万トン)
阪神・淡路大震災の例から推算された復興に要するセメント1000万トンが今後5年間に使用されると仮定すると年間ではわずかに200万トン、その間、関係するミキサー車などは東北に集中するために他県では使えず手薄になるために、結局復興需要による生産増加は多くを見込めないようです。

《問い》 
山の掘削拡張によって、どのような問題が発生すると予想されますか?
《答え》
様々な問題が懸念されます。 大まかにまとめますと、
土地改変と自然災害による山麓集落への土石流、洪水被害
騒音と風塵、土中の有害物質(カドミウムなど)の流失と地下水への影響、CO2の増加、
鈴鹿国定公園に隣接する美しい山の景観の喪失
貴重種が多数生息する全国屈指の山の自然生態系が根こそぎ破壊されること
産業廃棄物処理がもたらす環境汚染と住民への健康被害
地下に眠る、鍾乳洞、温泉源の可能性

《問い》 
順をおってお尋ねします。 まず、自然災害の心配とはどうしてですか?
《答え》
山頂の木を切り尾根を削り、石や土を谷に投げすてることにより、気象と山の保水力の激変により、山地性集中豪雨や地震災害で土石流が一気に下部の集落に押し寄せる危険が懸念されます。 また、治水用の遊水池じたいが決壊し大洪水の原因にもなりかねません。 いなべ市長および三重県知事の意見書はこの問題に一切ふれていません。 下の写真は大貝戸道の東谷斜面の崩壊の一部です。 山全体がもろくなっています。
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《問い》 
土石流災害にたいして会社はどのような対策を考えていますか?
《答え》
谷の中腹に、巨大な遊水池(溜め池)を作ることで、豪雨時の流水は充分にくい止められると回答しています。 しかし、地球規模で、あるいは日本列島自体が災害多発の時代周期に入ったとする専門家の指摘や、ここ最近の、異常高温、大型台風や山地集中型豪雨の頻発をみると、必ず「想定外でした」と会社が弁解するような大災害が起きてしまう可能性は非常に高いと心配です。 いま藤原岳山麓では谷に堰堤をさかんに作っていますがすぐに土砂で埋まっている感じです。 谷中腹の崩壊も進行中で、国道306号から現場を見上げてください。 素人でも鳥肌が立ちます。

《問い》 
土中の有害物質流出の可能性とは?
《答え》
鉱区予定地では地下にカドミウムなどの有害物質が存在しており、掘削によってそれらが地下水脈をつうじて予想もされない地域に現れ、農業や住民の健康に影響を及ぼさないとは言い切れません。 
地下水脈は複雑であり、その調査はきわめて困難で時間もかかるため、予定鉱区での調査は充分にはなされていません。カドミウム汚染の危険性は、アセスの審議でも指摘されながら、結局、識者からも行政からも看過され無視された形になりましたが、じつは重大かつ深刻な問題であり、将来、地域に襲いかかってくる危険性が非常に大きい。今春の植物調査でも分類学会の重鎮の方が終始口にされた危惧がこのカドミウムでした。
CO2に関しては、セメント産業は鉄鋼に次ぐ高排出産業であり、日本が国際的な厳しい削減目標にさらされている現状を企業は今後どう受けとめていくのか・・・

《問い》 
会社は生物への影響にたいしてどのような対策を講じる予定ですか?
《答え》
国指定特別天然記念物のイヌワシは現在では県下最後の一つがい*が藤原岳に営巣するに過ぎません。 会社は山頂予定鉱区周辺の木を切ってエサ場となるノウサギ繁殖用の草原を創出すると言います。 
(* 三重野鳥の会の最新報告では3つがいに変わったが、藤原岳の一つがいが最も繁殖成績が優れているそうです。)    また、レッドデータ記載の稀少種の植物や陸貝などは、すべて他の場所への移植で解決できると断言しています。  

《問い》 
その対策で、ほんとうに、イヌワシや貴重な植物、生物が生きのびられるのでしょうか?
《答え》
当該稀少種の生物が特殊圃園に存続さえできたらそれで問題解決かといえば、それは逆転した考えです。   なぜならば、もともとあった、豊かで比類のない恵まれた自然があってこそ、これらの貴重種が多数生息してこられたのですから、一番大事なのは基礎になる周辺の土、水、空気と生態系全体です。 
それらの自然を回復不可能なまでに破壊し尽くしておいて、稀少種のみを人工的な移植で保存できても自然環境上、なんの意味もありませんし、逆に遺伝子上の悪影響が生じ弊害ははかりしれません。
それに、エサ場を人工的に作ったり、特殊な環境にのみ育つ草花の移植を試みても、専門家たちはいずれも失敗するだろうと断言しています。 また、ダンプが埃をまきあげて疾駆する作業現場の近辺で、イヌワシが安心して子育てをするなどとはとても想像できません。  知事意見は貴重種の保全について事業者に厳しい注文をつけました。 県の指導が問われます。

《問い》 
風、空気、水なども心配ですが、自然豊かな表土さえ残せれば何とかなりませんか?
《答え》
そうなのです。 そこで、石灰採掘を表土の破壊なしに進められる坑内掘削にしてくれないかとの質問や要望は多いのです。 しかし、坑内採掘の石炭とは異なり、石灰岩はすべて露天掘りとなり、山の外観そのものが消失することをまず知っておく必要があります。 「黒いダイヤ」の石炭は日本では表土が残りますが、「白いダイヤ」の石灰岩は地形そのものをもぎとり消し去ります。

下の写真は、かつて太平洋セメント等が掘削した北九州の香春岳の現在の景観です。  三つ子山であった右端の山(一の岳)が標高492mから270mまで抉り取られました。 テーブル状の箇所です。
左の三の岳だけで植物は1200種にのぼるそうです。 信仰や伝承の山です。


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《問い》 
会社は、最後には緑化と復元を必ずやりますと回答しておりますが?
《答え》
80年間、掘り続けてきて、藤原岳のどこかで緑の復元がなされていますか? 一部クロマツの植栽があるそうです。 クロマツです。 多志田の谷を荒れるにまかせ、川は少しの雨でも濁水が渦巻き増水します。 東の三角斜面は御覧のとおりの禿げ山のままです。 努力のかけらもうかがえません。 全国の同社のセメント山の姿はネットの写真などで見えます。
太平洋セメントは例外でしょうが、一般に日本の一部上場企業の平均存続年数がどれほどかご存知ですか? ましてや今は激動の日本です。 仮に会社が存続できても50年も経てば、企業の内容も陣容も理念もまったく変わっています。 過去20年間でも、セメント産業は、構造不況、バブル景気、公共事業の縮小と、もっとも景気に左右される不安定産業で、譲渡・閉鎖・解散と合併に明け暮れてきました。 会社の実態そのものが消滅・激変しています。 それに、企業の収益に反するだけの緑化事業をどこまで真剣にやってくれるのか。 掘れるだけ掘ってあとは不況や採算面の理由などで放置されるだけではないでしょうか。  上の香春岳もコスト高の理由から太平洋セメントは鉱業権をあの麻生グループに譲渡して関係を切りました。  
他社とは言え、近くの白石鉱山跡の何十年も放置されたままの工場施設をご覧ください。 錆びた有刺鉄線とツタが這いまわり、荒れるがまま見捨てられてきました。 (ただ、近年、PCB流出による土壌汚染で大問題になり施設撤去の計画がやっと出ています。)
また、一般大手産廃会社の環境配慮や施策に対する社会的信頼はまだ確立しておりません。

《問い》 
セメント製造と産業廃棄物処理とは、なぜ関係があるのですか?
《答え》
セメントは石灰を主原料にして製造されますが、石灰が成分のすべてではなくて或るパーセントまでは混入物の使用が必要です。 そこで、高炉スラグや下水処理汚泥をセメントに一部混ぜることで産業廃棄物の減量が可能になります。 また、セメントは石灰を高温度で焼いて製造するので、有害物質や重金属などの廃棄物でも高温で焼却でき、都合がいいのです。 また焼却用燃料に廃油や廃タイヤなどを利用できます。 埼玉の武甲山を掘る秩父工場でも、三重県の藤原工場でも、営業の中心はセメントから産廃処理に移行していると言われています。 貢献事業ではありますが、県外からも続々持ち込まれる産廃量は膨大であり一部住民からは健康不安の声が上がっています。

《問い》 
一企業が営利目的で、自然豊かな山を自由に破壊することが許されるのでしょうか?
《答え》
できます。 先にも述べた鉱業法という法律が生きています。 太平洋セメントは山の所有権も持っているのだそうですが、仮に所有していなくても鉱業権さえあれば、所有者に通告なしに自由に掘ることができるそうです。 鉱業権は隣接する御池岳にも及んでいます。 鉱業法によって、山そのものが消えたり、上半分がちょん切られたりしますが、なによりも不幸なことは、日本全国の石灰山のほとんどが学術上超貴重な動植物生態系に恵まれていたり、歴史的な民俗・信仰の対象となってきたことです。(香春岳三の岳だけで植物が1200種)。 
そうした山の無惨な姿は、必要産業に依存する私たちの心に刺さるトゲだとも思えます。

《問い》 
自然保護が尊重される時代となったのになぜそのような鉱業法がまかり通っているのですか?
《答え》
鉱業法は戦後の我が国経済復興の国家的要請から、石炭採掘を最優先するために生まれた法律です。 
地域の公共の福祉(生活、災害、自然)よりも資源を強制的に確保する国益が優先された時代の法律です。 ですから自然環境の保全を重視する現代の国民の要請とはすっかり乖離したままで改正されることもなく生き続け強権をふるっている時代遅れの法律といえましょう。 この法律のおかげで、森林法、公園法、地方自治体の要請などを無視した一企業の独占的な山の破壊が許されるのです。 鉱業法の改正を要望する地方議会の声は三重県下でも起こっています。
こんな例もありました。 世界遺産の今帰仁城跡近くでの採掘権設定を、沖縄県外のセメント会社が国に申請した時(2003年)に、地元住民4000名の反対署名を前にして、沖縄事務局経済産業部環境資源課課長は、「鉱業権に関しては出願者の利益を確保するようにとの国の通達がある。 行政としては法律に基づき、適正かつ公正に対処するしかない」と突っぱねたそうです(「琉球新報」)。
聖地、古里、天然記念物生息地、遺跡、信仰よりも鉱業権が優位にあるわけです。
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《問い》 
地元の住民はどう思い、どんな態度を表明していますか?
《答え》
残念ながら組織だった反対表明はほとんどありません。  これまで藤原工場の存在と歴史は、北勢町や藤原町の地元経済にふかく関与し、関連する下請けをふくめ少なからぬ地元社員がいて、雇用、商業、地方行政に大きな影響を与えてきました。近年は、閉鎖された他工場の社員の流入や税収貢献の低下などその影響力は往時より著しく落ちたとはいえ、その存在と意義は決して軽々に論じられません。  一方で、山が荒れ、放置されたことで、山林業・農業・果樹などの一次産業が衰退して、自然と共存し自然を生かす従来の町の生活スタイルは失われました。
セメント産業の場合、資源は無尽蔵なわけですが、燃料高障害、安価な中国製品の影響や、セメント産業自体が経済動向に左右されやすい体質から、突然に工場が閉鎖され地域の経済が途端に行き詰まる例が全国各地にあります。 
景観の荒廃、産廃による健康被害も憂慮され、土砂災害などの心配も尽きません。 地域の将来への共存のあり方として難しく複雑な側面があります。
住民の間には地域の融和を最優先する美風が残っていて、一部に疑問とする意見があっても表面化をはばかる空気があります。 公開の署名運動には協力できないという住民の声もあります。

《問い》 
開発する側にとって、最も障害になり恐れることは何でしょうか?
《答え》
それはなによりも《地元の反対表明》が一番ですが、次はおそらく、イヌワシ、鍾乳洞、温泉の3つでしょうか。   今回、イヌワシ以外の希少生物への対処も難問です。
イヌワシは国指定特別天然記念物であり、現在、藤原岳の一つがいが県下最後の絶滅危惧種として生息しています。 生息地は全国のどこであれ開発は困難になります。 また、自然保護運動に果たす日本野鳥の会の実績は目覚ましいものがあり、藤前干潟につづき、今回も野鳥の会三重支部の活動は治田鉱山区の中止に大きな影響を与えました。
次に、鍾乳洞は石灰岩の山の地下に多くあり、生物・地質研究と国民の観光自然資源として重視され、発見されると様々な規制のために採掘はストップします。 会社は他の鉱山でも鍾乳洞発見の例はなかったとし、今回のアセスでも鍾乳洞調査は困難としています。 ところが、あるゼネコンの現場監督だった方の証言では、県下の工事現場で文化遺跡類が発見されると、工事の規制を避けるために逆に隠して急いで掘り進めたとのことで、そんな建設会社は多いそうです。(例外の話)  
藤原岳は代表的な石灰岩カルスト地形の山ですから鍾乳洞は存在するでしょう。  
温泉は、国民の重要な健康・公園資源として、発見されると開発がストップされることがあります。 
じつは治田鉱区内にその可能性が指摘されています。  青川峡から孫太尾根(治田鉱区)に突き上げる支谷のひとつに、「ユノタニ」があり、遡行登山をすると途中に大岩が浴槽のかたちをした滝壺が確かにあり、昔、坑夫たちがそこで汗を流したという話が伝わっています。 さらに多志田谷には硫化水素泉が出て、お不動尊があり湯屋が使われていたそうです。 埋没しているにしろ湧出の可能性があります。 冬期の積雪斜面から上がる湯気を目撃した猟師の証言もあり、藤原岳周辺には温泉の泉源が眠っている可能性があり、鍾乳洞の存在と併せて会社はしっかりと調査をする必要があります。

《問い》 
現在、アセスメントなど、開発問題はどうなっていますか
《答え》
アセスメントについては〈三重県環境影響評価委員会〉という会合があり、事業者側と県の関係者らとともに質疑応答をして環境への影響を何年間も審議してきました。 委員は、動植物、騒音、気象、水質、地形、化学工学、景観、などの様々な分野の専門家20名で構成されました。 審議経過の概要等は、当会のブログや県の広報をご覧ください。 議論は百出しました。

平成24年1月に委員会の答申があり、1月26日に県知事による意見書がネットにも公表されました。
その内容は〈藤原岳の自然を守る会〉のブログでも全文が掲載されています。
県は事実上のゴーサインを出しましたが、事業者に対してさまざまな環境保全上の厳しい条件を課しました。
「美しい藤原岳の保全」に向けた私たちの運動は、いま序盤を終え、いよいよ長い本番に入りました。 県には、事業者に課した条件が全うされるよう指導等頑張ってほしいし、審議会の先生方にも、答申に向け注がれた大変なご努力の成果を最後まで見届けるべく現場のモニターや事業者への働きかけを切に望みます。

なお、県への意見、要望は下記まで
〒514-8570 三重県津市広明町13 
県環境森林部自然環境課(059-224-2627) か、 
県環境森林部水質改善室(059-224-3070)

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