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       初秋のハルザキヤマガラシ
                                    2015.10.03 

先月の9月15日に、ひさしぶりに藤原岳を訪ねた。 
4月・5月に抜き取りに精を出したハルザキヤマガラシの現在の状況を知りたくて、同行者一人と山頂部に向かった。

密生地各処のハルザキヤマガラシは、種を飛ばしたあとの白っぽい空きサヤの殻を天空にさらして枯れた茎を至るところに残していた。 また地表には、地中に残存している根茎から芽を出しはびこった緑濃い葉がりっぱに成長して張り付いていた。 これは実は専門家の論文によると、根から出たものばかりではなく茎基部から発生したロゼットによるものだと知った。 こうして、花からの種を飛ばして枯れ果てた春生えの草とは別に、秋は秋で害草はしっかりと緑の葉を地表に広げているのだ。
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種を出した後の白っぽい殻と枯れた茎を見せる春生えの密生地のハルザキヤマガラシ

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夏から秋に生育した花のない葉と根茎だけの害草    枯れた春生えと葉だけの秋生えの群生地


一方、抜き取ったあとの草の処理に我々は悩んだわけだったが、ビニール袋に収めて持ち帰りきれず、木の又や、岩上に放置してきた参加者たちの草は、伸びきった茎が木化し枯れた束になって風化していた。これはこれで結果的に良かったのだ。
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春に抜き取って岩の上などに放置されていたハルザキヤマガラシの残骸

赤布を四隅の樹木の枝に掛けて、徹底して害草を抜き取った実験の場所は、ご覧のとおり、幾本かの秋生えの草が出ていただけで、見かけのうえはきれいになっていた。 われわれは、その新しいハルザキヤマガラシをさらに抜き取って、岩の上に置き、石で抑えてきた。 来春、その実験地と岩の上の草の状態を観察したい。
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前回抜きとった実験地と、秋生えを取り除いた跡。 赤布が見える。


6月の種の成熟期まえの生殖繁殖の害草抜き取りに加えて、9・10月の花を摘けない秋生えの栄養繁殖の害草を抜くことを数年続ければ、その場所はハルザキヤマガラシの発生をかなりの程度防げるかもしれない。 このことは、数年間の観察を経てわかってくることで、即断はできない。
秋のハルザキヤマガラシは、葉を広げて栄養をたっぷりと根に蓄えているのかもしれない。
年に2回の抜き取りを実践することが、ハルザキヤマガラシ防除に効果があるような印象を今回は持った。 

当の山小屋周辺には、ハルザキヤマガラシの生育があちらこちらに散見された。 抜いていた方からは、新設のトイレ工事によって周囲が人為的に攪乱されたために害草が息を吹き返したのだという考えを伺ったが、私には、従来まったくハルザキヤマガラシの姿を見なかった小屋周辺にどのようにして害草が侵入しだしたかの側面を考えると、害草のまったくない展望丘までを往復する多くの登山者の靴などや工事の人為的攪乱もその原因ではなく、おびただしいシカの往来とか、密生地からの鳥による種子の伝播などが原因であり、根本の密集地が無理でも、少なくとも小屋に近い前衛地の絶えざる駆除を図らなければ、小屋周辺の害草の問題は解決しないのではないか、と思った。 小屋周辺だけに防除を限局したい気持ちはわかるが、孫太尾根上部の岩礫地にもハルザキヤマガラシは蔓延しだしていると聞く事実を想起してほしい。 あとで判明したが、これらも茎基部から発生したロゼットによる秋の栄養繁殖のハルザキヤマガラシであった。 
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小屋周辺の秋生えのハルザキヤマガラシ。 左写真の中央に2個、見られる。

だが、ハルザキヤマガラシは、セイヨウタンポポのように種の飛散が主因で蔓延するとも思えない。  りっぱな雨量計が新設されており、そこまで新しい車道が山頂に伸びてきている。 その道路の両側には早々とハルザキヤマガラシが根づいて葉を広げていた。 
そうかといって、ご覧のとおり、山頂部にはハルザキヤマガラシがひとつも見られない広大な空き地があちらこちらに見られる。イワヒメワラビもまったく侵入していない文字どおり不毛の地だ。 展望丘への登山道でも、小屋周辺ちかく以外にはまったく害草の姿がない。 私には全然理解できないような、なにか土地と草との間に謎にみちた〈相性の相違〉があるのだろうか。
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このような不毛の地がたくさんある      右は初秋の頂上部の風景


すくなくとも、セイヨウタンポポがどの空き地にも飛散して暮らすのとは違って、ハルザキヤマガラシは、特定の人為的な荒れた場所だけを好むことは事実のようで、下界では荒れた河川敷でしか姿を目にしない。 展望丘の頂上部はその人臭さから、小屋周辺同様に次の格好の生育地になるのかもしれない。 いや、山頂部で、誰も寄りつかないようなひっそりした岩だらけの周辺にもハルザキヤマガラシがしっかりとはびこっている場所は多い。 いよいよ私にはわからなくなる。

すでに文中に触れてはいるが、植物を研究しておられる方から、橘雅明氏による「東北地方における帰化雑草ハルザキヤマガラシおよびカミツレ類の生態と防除について」(東北農研研報 2011)という論考を紹介された。
これを読み、生殖繁殖の一年生のハルザキヤマガラシから栄養繁殖の多年生のハルザキヤマガラシへの移行という、環境に対応して生き残ろうとする外来害草の生活史の変更という戦略の実態を知った。 また、花だけを摘むような草刈り的な方法は、かえってハルザキヤマガラシを多年生のしぶとい害草に変えてしまうまずい結果を生むということも知った。 東北地方の圃場や田という環境での観察と藤原岳山頂の環境での結果はまた違ってくるのかもしれない。 即断はできない。

次回に、橘氏の論文からの私の理解と要旨を列挙してご紹介したい。
(藤原昧々 記)




ハルザキヤマガラシ情報 - 4


橘氏の詳細な専門論文を、門外漢ではあるが、筆者が読んで、一応、ブログ読者の方に要約したかたちで文章化させていただき、私の感想を記した。 
まずは「東北地方における帰化雑草ハルザキヤマガラシおよびカミツレ類の生態と防除について」の要約と抜粋です。

ハルザキヤマガラシは、原産地ではサラダ菜として食用のため栽培されていたが、その種子が逸出し野生化していた。
畜産飼料として輸入された外国産の濃厚飼料にその雑草種子が混入して日本に移入された。 家畜が飼料を食べ、その糞から日本での生育が始まった。あるいは、家畜の堆厩肥を発酵未純なまま圃場に散布し、日本国内に定着したのであろう。
蔓延した理由は、対抗する病原菌、天敵、競争相手などが日本では完全に欠落していたからであろう。
ハルザキヤマガラシは、東北地方では4月中旬に花軸を抽だいし、5月上旬から下旬に開花し、6月中旬から7月上旬にかけて果実が成熟し、その後に種子を散布する。(筆者註:この生活史は藤原岳山頂でのハルザキヤマガラシのそれとほぼ同じである。)
ハルザキヤマガラシは、著しい耐水性をもつ。2年間水中保存したハルザキヤマガラシの種子の30%は発芽可能
種子の伝播には、水流の関与が大いに推定される。そのため、河川や用排水路の周辺に繁殖しやすい。
東北全県には、1990年代に爆発的に拡散し定着してしまった。
ハルザキヤマガラシは有性繁殖(長角果に種子を付け散布する)と無性繁殖(根から生じる不定芽、ロゼット葉の葉腋から生じる脇芽、茎上葉の葉腋に形成される茎上ロゼットの芽などからの発育)という多様な生活史を示す種として知られる。
春の発芽個体は有性繁殖であり、二年生として生育・繁茂する。
秋の発芽個体は栄養繁殖であり、冬性一年生として生育する。
茎が刈り取られたり、種子散布をした茎が枯れると、茎の基部につく新しい芽からロゼット葉を発達させる。 
刈り取りの損傷が、栄養生長から生殖生長への資源分配の変更を遮り、親個体からの再生を増加させる現象がみられる。 花の形成が妨げられると、生殖生長から栄養生長および新しいロゼットの形成に移行しやすい。 
そのため、刈り取りなどの人為的攪乱によって次年あるいはそれ以降に開花が延ばされると、ハルザキヤマガラシは多年生として生育する場合が多い。
だから、それぞれの個体が種子繁殖によるのか栄養繁殖によるのかを調査する必要がある。 すなわち、生活史の変動、および根の断片の生存能力を調査する必要がある。
茎を刈り取っても、半分以上のハルザキヤマガラシは、茎基部に新しいロゼット葉を形成する。
ハルザキヤマガラシは、主茎がなくなっても、ロゼットを複数年にわたって形成し、多年生の性質を示す。
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春に開花する有性繁殖のハルザキヤマガラシと、その秋の種子散布後の枯れた草

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無性繁殖の秋のハルザキヤマガラシと、抜き取った個体

したがって、草刈り回数が多いほど栄養繁殖を促し、生存率は高くなる。圃場での草刈りは、ハルザキヤマガラシの生育相を生殖生長から栄養生長に移行させ、同種を一年生から多年生植物に誘導し移行させて生存率を高め、生き残りしやすくする結果を生む。
圃場でのハルザキヤマガラシは、このように、ふたつの異なる管理作業(耕起と草刈り)に対応するため、種子繁殖と栄養繁殖とに生活相を変更して生き残る戦略をとる
根の断片の萌芽率は、乾燥と腐敗には弱い。 土壌が適度に湿った状態が最適である。
ハルザキヤマガラシの防除には、拡散経路を確定し、拡散経路の遮断を試みる必要がある。
                                (以上)

この論考を私に紹介してくださった、畏敬するある植物研究者は、こんな推論を私に語られたことがある。
藤原岳山頂で昭和の初期以前に、家畜の飼育がなされてはいなかったか。 輸入された飼料の使用が、山頂でのハルザキヤマガラシの発生をみたということはないのか。
ハルザキヤマガラシは、標高的に高いところから低い場所に蔓延した。
雨や雪解け水が、ハルザキヤマガラシの種子の伝播に関係しているようだ。

以下は筆者の私見です。
藤原岳山頂でかつて牛馬の飼育が行われたという事実は、現地古老の証言にはなかったし、外国産の濃厚飼料が日本に輸入されて使用されだしたのは、筆者の家業がかつて飼料商でもあったし、知るかぎりでは農家での使用は戦後のことなので、この点はあたらないと思う。
やはり、セメント鉱山の開発と採掘において車両のタイヤが媒介したとしか考えられない。
種子の拡散に、雪解け水の介在はおおいにあったと、指摘されてみて思いあたる。
雪解け水が残りそうな場所にハルザキヤマガラシは繁殖していそうであるし、何の植物も生育していない不毛の地は、周囲よりも小高い乾燥しやすい空き地のように思われる。ハルザキヤマガラシの根は乾燥に弱いし、荒地に生育し北部鈴鹿山系にも多いシダのイワヒメワラビも陽地から半陰地を生育の場とすると図鑑にあるが、乾燥し過ぎる場は避けるのかもしれない。
雨量計への新しい道路が山頂にできていたが、道路は周辺より低地になり、車両のタイヤも入ればハルザキヤマガラシの種子は容易に侵入する。

今のところ想定される私たちのハルザキヤマガラシの防除方法は、以下のようなものになるだろうか。 もっとも何年かの観察と試行錯誤がその前提になるのだが。

5月の開花期とあわせて10月ころの秋季にも再度、栄養繁殖のハルザキヤマガラシを根から抜き取ることが効果がありそうである。
蔓延されては非常に困る場所を特定し、そこへの侵入経路を抜き取り作業などで遮断する。
行政の方々は、登山者の目に入りやすい場所である、登山路や小屋周辺、休憩場所での繁殖を抑制したい意向なのかもしれない。 外見だけは大事にしたいお気持ちだろうか。
山荘の掲示ポスターには、作業する者の登山路以外への立ち入りを牽制したり、土地所有者にあらかじめ承諾を得よと無理難題が書かれている。 県が会社の承諾をとっておけば済むことである。
とは言っても、以前には山全体を蔽っていた美しい在来植物が激減か全滅してしまった藤原岳本体の現状を思うと、ハルザキヤマガラシの蔓延から藤原岳を守るべき貴重な自然はもう無いも等しいと言えるし、鉱区の拡張はどんどん進行するので、もう防除は無意味だと思っておられるのかもしれない。山頂は、下界と同じの、ドクダミ、オオバコ、イワヒメワラビ、ハルザキヤマガラシの広場に近いので、それも理解できる。

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山頂の小屋に掲示されているポスター(ダブルクリックで拡大)

県の同ポスターにも紹介されている、花だけを刈り取るという一つの方法は、ハルザキヤマガラシの多年生への変換をより促進し、害草をたくましくして、防除の手立てをより困難にするのかもしれない。

論考の著者も書かれているとおり、原産国での生育に関する知見だけでは防除は不可能であろう。東北地方の圃場とは異なる、藤原岳山頂という新しい環境でのハルザキヤマガラシの生育状況をもっと調査し皆で対策を講じあう必要がある。
(2015年10月05日 記)















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     藤原岳孫太尾根・三重RDB改訂版に記載された種
                             山脇和也


<はじめに> 藤原岳孫太尾根は太平洋セメントの開発からは野鳥の会の努力によりさけられたが、地元の土建業者による採石が進み、2015年までに標高500mまで西側斜面が削り取られることになっている。
それから先はまだ未定であるが、いなべ市は何らかの理由をつけて、許可をする可能性がある。
稜線の標高は600~800mなので以下の植物が大変な危機にさらされている。

CR種(10種)
 フキヤミツバ
 オオキヌタソウ
 ステゴビル(新)
 セリモドキ(新)
 シコクフクジュソウ(新)(alt600~700mに生育)
 アオスズラン(新)
 ヤセホタルサイコ(フジワラサイコ:芹沢仮称)(新)
 キンキマメザクラ
 ミノコバイモ
 チョウセンキンミズヒキ

EN種(8種)
 イチョウシダ
 ビッチュウヒカゲスゲ(新)
 イワツクバネウツギ
 ヒロハノアマナ
 イワタケソウ
 セツブンソウ
 ミスミソウ
 マルバサンキライ

VU種(12種)
 エダウチフクジュソウ(alt1000m以上に生育)  
 キクザキイチゲ
 シギンカラマツ
 ルイヨウボタン
 ヤマシャクヤク
 ヤブサンザシ
 イブキシモツケ
 ビワコエビラフジ
 ヒメフウロ
 トウゴクミツバツツジ
 イワザクラ
 アズマスゲ    
 ハシドイ   
 ツルガシワ

 以上、絶滅危惧種30種が孫太尾根の狭い地域に生育する。 CR種が10種も生育している特異な場所である。シカの食害や登山者の踏みつけにより多くの種が絶滅の危機にさらされている。一番の危機はいうまでもなく土建業者による採石であるが、この地域は是非とも特別保護区か特別地域に指定されなければならない。 しかし、地元いなべ市は全くの無関心。当の教育長は、藤原岳の自然のすばらしさを子供たちに伝えることもなく、「シカの食害や登山者の踏みつけを防ぐことは不可能だ。」という、よそごとのような回答しかしてこなかった。

 他に、孫太尾根にはイヌワシが営巣している。 また、日本で藤原岳南東部にしか生息していないカナマルマイマイという県指定の希少野生動植物種のカタツムリの仲間もいる。


 以下に孫太尾根を除いた藤原岳に生育する絶滅危惧種をあげておく。

CR種
ギョウジャニンニク、キバナノアマナ、ササバギンラン

EN種
アサダ、オヒョウ、タチハコベ、ヤマブキソウ(ホソバヤマブキソウ・セリバヤマブキを含めて)
 ヤマブキショウマ、コフウロ、マルミノウルシ、メグスリノキ、ヤマトグサ、カンボク、ホソバ
 ノアマナ、ヒロハテンナンショウ、ツクシイワヘゴ(いなべ市の低地、亀山市には群落あり)
 ヒメニラ(新)、ミヤマザクラ(新)、ミヤマチョウジザクラ(新)、サナギイチゴ(新)

VU種
エダウチフクジュソウ、アズマイチゲ、ミツバフウロ、テツカエデ、イワウチワ、サラサドウダン、タニジャコウソウ?、マネキグサ、レンプクソウ、タイミンガサ、ニシノヤマタイミンガサ、
 ムカゴツヅリ、ミヤマジュズスゲ、キヨズミオオクジャク(藤原町で記録あり)


                               2015.04.04 記











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by mamorefujiwaraMT | 2015-10-02 15:22 | 会員 各種論稿