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県環境影響評価委員会傍聴記 その1

第二回評価委員会 傍聴記
                                          (会員 M)     2011.10.14 記
平成23年度 第二回三重県環境影響評価委員会
10月13日(木) 13:30~16:30   会場:津市JA会館3階
傍聴者8名、うち数名は野鳥関係者、1名はアセス関係会社社員。

今回の審議内容を象徴する生物は三つ、xxxミツバ(植物)、イヌワシ(猛禽類)、xxxxマイマイ(陸貝)であっただろう。 論点は二つ、移植と林間ギャップ。 その論議の背後にある立場の相違は、採掘前の調査・検討を主張する委員側と、採掘を前提とする事後対策の方策を検討したい事業者側とのいわば前か後かの対立であった。
即ち、業者側の本音は、まず開発行為ありき、で、付随する補償措置は同時的ないしは後で講じていくことになり、発生してくる諸問題の解決をどうするかが課題になる。  
その結果が移植行為の試みであり林間ギャップの創出である。 委員から問い詰められれば「そんな方法ではダメだと言うならば、委員さんの方から専門的な良い方法をアドバイスしてくださいよ」という居直りにちかい答弁が本音になる。
審議では、林間ギャップはその効果への疑問とともに、少なからぬ規模の環境の改変になるので、周辺への影響の大きさゆえに本アセスの趣旨からも否定される方向の論議となった。
次の移植の方策は、実験と検証は小規模でやれる可能性があるので検討の余地はあるが、採掘との同時進行は許されず、やるならば開発に先行して最低でも数年、あるいは10年はかけて実験しその結果を見てから採掘を判断するべきだとの意見が続出した。

今回の会の雰囲気を決定し支配したのは、審議の冒頭に、県自然環境室副室長の唐突ともいえる次の指摘であった。 すなわち、発見されたxxxxマイマイは、三重県保護観察指針に掲載されている種に該当し、生体の採取は厳に禁止されている。 ただし例外として、研究や繁殖・保護の目的でなら特別に許可される、と。  つまり、逆に言えば、その生物が繁殖上、生息可能な別の場所と方法が見つからなければ業者側は移植の目的ででも採取ができないことになる。 
この水戸黄門の印籠的指摘は、業者側にとっては、今後へのそうとう厳しい課題と桎梏となってのし掛かり、当日の苦しい答弁を予想させる暗雲となった。 
鉱山会社への開発阻止運動は茨の道だろうと覚悟していたが、今日の意想外の展開を傍聴するかぎり、業者側の開発企図も茨の道ではないか、と思えてきた。  第一回の委員会をともに傍聴したY氏が、「今後はイヌワシ大権現からxxxx大明神が最大の論点になるぞ」と意気込んでいたことが、まさに事実となって現れたのだ。

林間ギャップの件  
鉱区予定地とは別の箇所に樹木を伐採して、イヌワシのエサとなるノウサギの繁殖場となる高原状の場所を創出するという業者側発想の補償措置である。 
委員からの指摘をざっと列挙すると以下のとおり。 
新たな環境破壊をまねく。 場当たり的な対応。 まず開発ありきの発想。 ウサギ以外のヘビ類のエサ調査が不足。 この方法が補償措置として最良だとは決まっていない。 など

移植の件
委員の主な指摘は以下のとおり。 
稀少生物は一度絶えると二度と同じには回復しない。 採鉱期間が50年なのだから、まず数年間の移植実験期間を経てからでも良いのでは。
後者に対する業者側の回答は、最初は地下の予備工事からとりかかり、地表での実質採掘開始は5年後からなので、バイオの研究は同時進行が可能である、というものであった。 
それに対して委員からは、方法が組織培養、種子保存のいずれにしろ生育地そのものが消滅するのだから無意味だとする見解が出された。

審議の経過を、以下、筆記したノートからざっと報告するが、各処の重複はご寛恕を請う。
前回は、風塵、騒音、地形、土木など会社側の本業であり、お手の物の分野から審議が始まったが、今回は順番が逆になり、植物 昆虫 野鳥 陸貝 と深刻な被害が予想される生物分野から委員の発言がなされることとなり、最初から踏みこんだ指摘が委員たちから出され以後の審議のボルテージ上昇に少なからぬ影響を与えた。

最初の植物担当の委員からは、シカ食害への対応の必要性と、林間ギャップ手法への率直な疑問が出され、つぎの委員からは、同じく、移植や培養への根底的な疑問、開発以前に数年かけて実験する必要性などが提案され、一方、坑内採掘の可能性への質問があった。 後者の坑内採掘は当然ながら業者側からコストの点でニベもなく否定されたが、その質問によって、自然環境よりも利潤追求を重視する会社の宿命的体質をはからずも引き出して全委員を鼻白ませ、以後の委員の発言に自然環境評価という委員会本来の趣旨への回帰と意欲を促す効果があった。 次に、ご専門ゆえか前回も業者側に移植の方法のアドバイスをした異色(移植)の委員が、今回は、組織培養よりも種子保存が良いと、木を見て森を見ない的発言をされた。 

つづく昆虫関係の委員二名からは、稀少種よりも種の多様性や微小種・未記載種の重視への視点の転換、移植試験の開発前実施の必要性が縷々説かれ、やはり林間ギャップ手法への否定の発言があった。 微小種・未記載種の重視にはまったく同感である。 私も提出した住民意見書の中で、既知種、同定確定種のみのアセスの記載手法では、現場の生物相の実態を正確に反映しておらず、キノコ類の調査は不充分ではないか、と述べた。 キノコのように分類が特に進んでいない分野では、藤原岳のように未知の種が多い地ほど、より魅力のある環境だとも言えるからだ。
猛禽類専攻の委員からは、イヌワシに関連して、ついに「それを言ってはお終いよ」の、開発中止を求める要望が出された。 技術の未確立な林間ギャップ手法の否定、人工的なエサ提供の矛盾、おまけとして、全国的な問題解決に対する業者側の技術研究への時間と投資への要望があった。 この「中止」の言葉は、次の委員の油に火を放つかたちになった。

次の委員は、標本を持ちこんでの、xxxxマイマイでの追求。 大明神の神輿を担ぐ僧兵の勢いだ。  
県の条例指定の生物への影響の重大さ、法律違反を問われかねない行為だなどと、激越な指摘の連続。
曰く、移植成功例は皆無、同一種内でも個体の多様性あり、同時進行での試験など論外、陸貝類は一般に10年単位の事前調査が必要との指摘。 返す刀の切っ先は県の担当者に及び、保護施策徹底への要望や叱咤の発言はまさに環境評価委員の聖職に恥じぬ鑑であった。  

供覧に付されたxxxxマイマイの標本は、幸い傍聴者にも回覧された。 私は図鑑やネットでは目にしていたが、実物の標本は初めてで、背中の盛り上がりが全く異なる個体数個が納められた実物をじっくりと拝見できた。 その透明でうすい鼈甲色をした、いぶし銀ならぬ燻し金の、物言いたげな色彩美に、私はため息をついた。 それはまさに、藤原岳がまとう緑と花々の衣装の裏側に鏤められてひっそり息づく命ある宝石である。 セメント幾万トンの価値をも凌駕すると断言したいほどの小柄で寡黙な貴婦人の姿であった。
次の委員の語り口は、前委員の動から静へと一転して、「森が枯れれば海が死ぬ」の含蓄ある箴言から始まり、将来予測の不可能性や現世の無常などを諄々と説かれて、業者側の開発行為の傲慢さをいましめるかの説法で終わり、会場内は粛然として声なし、の様であった。

この後は、委員の専攻分野が、大気、気象、地下水、地形学、騒音評価などに移り、私の筆記記録も途端にわびしくなってきた。 内容も前回の委員会と重複するようでもあり、興味も遠のいたが、二三、注目した発言を以下に記したい。
尾根が削られ消えると、大気の流れ、日射の具合、雨の降り方が大きく変化する。 予測変化は簡単な計算で可能なので是非やって欲しい。
鈴鹿国定公園の境界、線引きの問題。  滋賀県側は、きれいに山の全部が公園に入れてあるのに、何故に三重県側は複雑怪奇なぐねぐね線が引かれているのか。 貴重な植物の宝庫である美しい土地なのにわざわざ公園からはずしてある。 鉱山は何故はずしてあるのか? といった意地悪な質問で、溜飲が下がる。 県の回答は、公園は国が指定し、現在は県が管理している。 国の境界指定の経緯については調査する、であった。 (理由は、鉱山法は公園法に優先するからであろう。 50年先にはおそらく逆転しているだろうが。)
種が残るということは、その場で残るという意味だ。 だから移植を論議する前に、この開発事業を認めるか否かの決定がすじ。 業者側は、もし妥協するならば、ある部分は中止にし、ある部分はトンネル鉱法でやるべき。 世の中、50年前は寒冷化対策を論じていたのに現在は温暖化対策が問題になっているように、今後50年先の自然観も確実に変化する。 本委員会の趣旨と逸脱するが心情としては開発中止を論議の中心にしたいほどである。                        以上 
                                                
会の進行も閉会時間に近くなってきたが、各委員の発言は時として原則論、心境吐露に傾いてきて事業者側は回答不能になり審議の中断が多くなった。  そして予定時間となり、三名ほどの委員の発言を残して会は終了した。 うちの一名は、前回会合で、人間とコンクリートとの芸術的調和を説いて業者側の顔をほころばせた方である。

総じて第一回は踏みこみ不足、第二回は委員が心情に流れて本来の学術的追求が不足する印象が残った。  例えば、「組織培養は保全の役に立つどころかむしろ悪影響を及ぼし、組織培養由来個体の抜き取りに苦労する事例(愛知県豊明市のナガバノイシモチソウ)があると旧委員の一人は指摘されておられるが、その種の具体的な質問や提案が委員の口からもっと聞きたかった。  
希望的心情を個人的にいくら語っても、あるべき環境へ向けての専門学的評価には結びつかず、アセスメントの本来の目的から遠ざかるのではないだろうか。   
                                         
(本委員会の議事内容は、当BLOG 〈アセス県評価委員会審議内容〉に掲載されています。 三重県環境森林部自然環境室の下記HPでも閲覧や印刷・コピーができます。)
http://www.pref.mie.lg.jp/SINGI/201112018521.pdf